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好きなウタ


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[火の文字]
ハリール・ジブラーン(神谷美恵子・訳)
 

それならば夜々はわれらの傍らを素通りし、
運命はわれらを踏みにじるにすぎないのか。
われらは年月にのみこまれ、すべて忘れ去られ、
インクでなく水で記された名のみ頁に残るのか。
この生命はかき消され、この愛は消え失せ、
これらの希望(のぞみ)はうすれ行くというのか。

――中略――
否、まことに、人生の真実は人生そのもの。
生命の誕生は母胎に始まらず
その終わりも死にあるのではない。
年々歳々、すべて永遠の中の一瞬ではないか。

この世の生とその中のあらゆるものは
われらが死とよび、恐怖と名づける覚醒(めざめ)の
かたわらでの夢にすぎないのだ。
夢、そう。でもそこでわれらが見るもの
為すものは、すべて神とともにつづいて行く。
われらの心から生まれる微笑と嘆息とを
大気はことごとくたずさえ行き、
愛の泉から湧き出るくちづけのすべてを
たくわえつづけるのだ。

――中略――
今日われらに弱点とみえるあやまちも
明日には人生の一環と見えるだろう。
報いなきわれらの苦悩や労役も
われらとともにあってわれらの栄光を語るだろう。
われらの耐え忍ぶ艱難(かんなん)も
われらの栄誉の冠となるだろう。

かの愛(めぐ)しき詩人キーツの歌は
人びとの心に美への愛を植えつづけている。
彼がそれを知っていたならば、言ったことだろう。
「私の墓の上に書け。ここに眠るは天の面に 火の文字でその名を記したるものなり」と。